米坂線

2004年4月8日に米坂線に乗っている。以下はそのメモである。

この日は、山形市内の宿を9時50分に出ている。予定していた蔵王観光は昨日のうちにすませたから、半日空いた。駅まで遠回りを試みる。山形県郷土館の前を過ぎ、線路をくぐって山形城跡の霞城公園を抜ける。なにやらアナウンスの声がスピーカーから聴こえてくる。山形大学の新入生のオリエンテーションらしい。今日はまさにそういう日だ。

山形駅西口に、霞城セントラルなる24階建てビル。高さは約115mという。山形駅発の予定は14時49分であったが、10時51分の電車に乗る。広軌対応の718系電車である。揺れも少なく、乗り心地は良い。さすが新幹線の路盤、よく整備されている。11時7分、かみのやま温泉着。

温泉と名のつく以上、どこか入れるところはないかと探したら、観光案内所で「鶴の湯」を紹介された。その価格、わずか80円。洗髪したいひとは、別料金を払う。蛇口のひねり口を渡されるというシステムだ。貫禄のある浴槽、というのか。

上山城に登る。資料館などは、どうでもよい。展望だけを望んでうえにあがった。遠くには山々、広がる田畑。それだけの景色であるが、南東の方に、場に似合わず高いビルが建っていた。スカイタワー41という高層マンションらしい。一説には東北一の高さらしく、こんなところでお目にかかるとは思わなかった。

山を下りて、蟹仙洞博物館。行く気もなかったが、なぜ行ったのか。そう。確か、観光案内所でもらったパンフレットに割引券がついていて、2ヶ所だか3ヶ所回ると、プレゼントに応募できる。そんな仕組みだったのだ。蟹仙洞は古い民間住宅。中庭のある日本家屋。玄関をくぐると、受付のおばさんが奥からやってきて券をもぎり、それから、ストーブをつけてまわった。展示品は、刀や壷、といった美術品。メインはそちらであったが、パネル展示で古い写真が飾ってあったのを興味深く見た。戦中戦後だろうか。駅のホームで蒸気機関車に群がる人々の写真があった。

駅には、ちと早く着いた。13時51分の電車に乗るつもりだが、30分以上ある。一駅前まで戻ってそこから乗ることにした。一駅前というのは「茂吉記念館前」駅。谷口吉郎の設計なので、外観だけでも眺めてこようと考えた。13時29分、かみのやま温泉発。13時32分、茂吉記念館前着。記念館自体は、走ってさらっと眺めて帰ってきた。

茂吉記念館前」は無人駅。2面2線の島式ホームで、向かい側へは踏み切りで渡る。無人駅らしく、オレンジ色の乗車駅証明書発行機がある。証明書といっても、バスの整理券と同じサイズ。つばさ116号が過ぎていった。周囲に緑が繁る小さな無人駅を、線路いっぱいいっぱいの大きな図体の灰色の400系車両が通り過ぎていくのは似つかわしくなく、すこし異様であった。茂吉記念館前を、13時47分出発。米沢に、14時29分到着。

さて、と思案する。当初予定では、米沢発18時27分。4時間も早い。米沢の観光地を探して、足をひきずって歩くのもしんどく、手近な列車に乗ることにした。14時54分発、今泉行き。乗客のほとんどは、地元の高校生。方言で喋っているのが耳に入ってくる。今泉には、15時30分に着いた。

今泉という駅は、幹線からは離れているが、案外大きい。山形鉄道フラワー長井線に接続。むかしは、長井線という国鉄の路線であったが、1988年に転換している。長井線は、宮脇俊三の『時刻表2万キロ』にも登場する。始点赤湯から終点荒砥まで至り、タクシーで今泉まで引き返してきた。感慨深く駅舎の前に立つのである。終戦の日玉音放送を聞いた場所であった。

とはいえ、私には何の思いでもなく、初めて踏んだ土地である。山形鉄道と共有の駅舎のベンチに腰を下ろしていると、みどりの窓口に女子高生が定期券を買いに来たのを見た。今学期から使う定期券を買おうというのだが、継続なのか新規なのか、学校からの証明書がどうとかとやりとりをしていたのだが、それが山形弁でほほえましかった。

次の坂町行は、16時40分に着き、16時41分に出る。ちょうどフラワー長井線のワンマン列車も、上下線ともに入線してきた。1番、2番、4番ホームに列車そろった。なかなかの賑わいであった。列車に乗る。キハ47。ローカル線の雰囲気満載だ。なんと手動ドアである。坂町方面に走り出すと、しばらくは長井線と共用である。2kmほどの単線区間だ。

田園風景は見飽きた、とばかりに読書に励む。車中で『大地の子』の第2巻を読了した。日はどんどん暮れてくるが、まだあたりの様子は分かる。雪深い風景。この辺、春だというのにまだ雪が残る豪雪地帯だ。トンネルを抜けると、越後金丸。「越後」という文字を見ると、感慨深いものがった。何年ぶりの新潟だろう。メモには「新潟に入った!」と記した。

ここから先、坂町までは、駅名に必ず「越後」が冠される。まず、「越後金丸」。金丸という駅は石川県の七尾線にもある。つぎに、「越後片貝」。片貝駅は、群馬県上毛電鉄の駅だ。それから、「越後下関」。下関は言うまでもなく、山口線の下関。そして、「越後大島」。「大島」は、都営新宿線にある。米坂線の方が後だから、ということではなく、駅名をこうしてあるのは、単に分かりやすさからだろう。

坂町には、18時16分に着いた。