只見線

2004年12月27日に只見線に乗っている。以下はそのメモである。

只見線は、会津若松と小出を結ぶ135.2kmの路線である。小出というのは、新潟県魚沼市。この年の10月23日の新潟中越地震で被災した地域である。上越新幹線が被害を受けたのは大きく報道されたし、また上越線も幹線ゆえ報道での取り扱いがそこそこあったが、実際のところ、只見線も被害に遭っている。ネット上のあるサイトでは、レールは左右に曲がり、隆起している様が写し出されていた。その後、只見線は11月20日に復旧している。

只見線に乗るなら冬である。国鉄末期、赤字減らしのために只見線廃線候補となっていたが、福島・新潟の豪雪地帯を走る路線であり、並走する国道は冬期は通行止めとなってしまうことから、バス転換できず、廃線を逃れたという経緯がある。ローカル線らしく、本数は少ない。全線通して走るのは上下線とも一日各3本。1番列車は6時台に出るし、3本目の最終列車が着くのは21時頃。泊りを覚悟したくなければ、昼にある1本が唯一の選択肢となる。加えて、在来線のみで乗り継いでいこうとすると、小出発13時12分、会津若松着16時59分という上りのみが現実的な解となる。

さて、この前日、仙台から東京までどう経由して帰るかというのが課題であった。東北本線直行ではおもしろくない。かといって、磐越東線水郡線も乗ったことがある。とすると、只見線に乗りたくなるのだが、これが難物で、会津若松発13時8分の列車は小出までは良いが、そこから乗り換える上越線列車が越後中里で止まってしまい、在来線乗り継ぎではその日のうちに帰れない。30キロ先の水上まで行けばもっと遅くまで電車はあるのだと思うと口惜しくなる。

ところが、思いがけずにうれしいことが起こった。小出から乗ることになる上り上越線列車が、12月18日から2月28日まで水上まで延長運転されることになったのだ。しかも、水上着は19時52分。乗り換えの高崎行きは19時54分発と、接続も極めて良い。なぜかは知らない。スキー客がふえる冬だからなのかもしれない。ともかくも、これを逃す手はない。これは私のためのダイヤなんだと思った。

さて、当日。仙台駅前にバスが7時42分着。予定では7時37分着だから、5分遅着。かなりシビア。終点まで乗ったのは私だけ。

7時47分、仙台発。5番線。ギリギリセーフで乗れた。700系4両編成。大河原でほとんど降りた。車掌のイスに座る。「忍錠にて解錠にて」と書いてあるが、金属片を突っ込んだら車掌席が降りた。使えた。9時6分、福島でほとんど降りた。ゴミ清掃のひとが通っていった。同じ車両が、9時40分発の郡山行になる。郡山10時27分着。この列車、このまま10時42分発の黒磯行きになるそうだ。

時刻表の上では、まったく別の3本の列車であるが、この電車、7時14分に松島を出て、11時43分に黒磯に着く。4時間半の大旅行をしているのだな。車両の運用というのもの、ときどき考えてみると面白い。

郡山駅、もっとも本屋寄りは2番線である。1番線は線路が撤去されている。磐越西線は2番線から。10時52分発の臨時快速に乗る。このあと11時10分の普通電車でも間に合うが、臨時というレアものの響きには弱い。郡山駅2番線と3番線の間には、光のページェント号が待機していた。

クハ455-306。ボックス・シートの一画を陣取る。ひとつむこうの人が自分撮りを試している。カメラを、テーブルに置いたり、窓枠に寄せたり、背もたれの上に乗っけたり。自分もよくやったものだ。

磐梯熱海で列車交換のため、3分停車。快速ゆえに、駅を飛ばしてきたわけだが、ここで3分もロスなら、駅を飛ばすこともないのにと思ったり。更科信号所でまた交換。会津若松に12時ちょうど着。

会津若松で1時間、潰さねばならない。夏の苦い思い出もあるが、それはさておき、駅前でテレビの収録をやっていた。駅舎を背にしたレポーターが「さーて、とうとう会津若松までやってきました」と言っていた。駅舎の中から興味深くうかがう人たち。何のテレビ番組かは不明だった。

待つこと1時間あまり。会津若松13時8分発が入線。2両編成キハ40-2024とキハ48-546。乗員3名。手動で重い自動ドアを開ける。続々とおばあちゃんがたが乗り込む。出発。七日町で中学高校生がたくさんのってきた。若宮でいっぱい降りた。私は北海道旅行の帰りである。いい加減疲れて、寝る。

駅に止まっては目がさめて、ときおり、ターンテーブルなどが見えた。蒸気機関車時代の名残だろう。雪はより一層深くなってくる。会津川口8分停車。ホームに降りて、列車をバックに自分撮りを試みる。煙草休憩をしている乗客のひとが「自分で撮れんの、それ」と声をかけてくる。「えぇ、だいたい見当をつけて」と口を開いたところでシャッターを押したらいい表情だった。

本名〜会津蒲生間は、ホームが短い。後ろの車両のドアは開かない。只見線で一番有名な鉄橋を過ぎた。写真でしか見たことがなかったが、只見駅の手前のそれであったようだ。寝過ごさずにすんで、よかった。さて、只見駅只見線というだけあって、只見駅が中心である。20〜30人乗車してきた。6分停車。この駅もターンテーブルあった。

只見前後で、さっきの煙草休憩のひとが携帯電話で商談をしているのが聴こえてくる。商談は雑談に移った。「140kmの道を4時間かけて…。1日に3本しかない…。今日は越後湯沢で泊り。明日はぐるっと回って夜帰ってくるつもり」などと話をしている。このおじさん、鉄らしい。60歳前後のおじさんで、テーブルには缶ビールとピーナッツが広げてあった。

只見〜田子倉間で長いトンネル。県境なんだろうか。ここで、検札。JR北海道&東日本パスであったが、ここで初めて、スタンプを押してもらう。5日間の使い終わりの日。「会津若松運輸区」である。記念押印というのか、はからずしもいい記念になった。

しかし、それにしても寒い。どんどん暗くなってくる。と、気づいた。うしろの車両にはデッキがついて2重扉になっているが、この車両、そんなものはないから暖気が逃げていく。とはいえ、せっかく乗った車両だからと、乗りつづける。乗客約3名。鉄道少年と件のおじさん、そして、私。後ろの車両も人影が、ほぼ、ない。

16時30分、田子倉通過。右手、暗いシェルターの中に駅名標が見えた。もちろん待つ人はなし。大白川での停車も、ドアを開けたまま。ここで、おおきな南京錠のような、タブレット交換というヤツを、初めて見た。

小出17時42分着。4番ホームは、スプリンクラーで融雪していた。雪を溶かす水がチョロチョロ流れている。ここで、今日から上越線開通により時刻が変更になっているのを知る。新潟中越地震で不通になっていた小出〜宮内間がこの日から運転再開されたのだ。確かにニュースで聞いてしってはいたことだが、時刻変更とまでは考えが及ばなかった。

びっくりして、水上からの電車があるか心配する。駅の掲示板をなめまわすようにして、見る。果たして、あった。よかった。さて、安心したらおなかもずいぶんすいてきた。売店にはたいしたものはない。駅舎で考える。牛丼でもそばでも食べられないかと下りに乗ることにする。小出、17時51分発。5分遅発。越後堀之内北堀之内、と止まる。電車の中から駅舎を眺めるのだが、小出の方がずいぶんと賑やかだったことを知る。

さて、ここで問題である。駅に掲示されていた時刻表によれば、この下り電車は「越後川口18時35分」である。私が小出から乗ろうとしていた上り電車は「越後川口18時32分」である。ここまま越後川口まで行ってしまうと、電車が捕まえられない計算である。北堀之内の人気のない駅舎で30分も待つのはさびしい。かといって越後川口まで行くとすれちがってしまう。

しかし、ふと、ここである事実を知る。それは、ごくごく初歩的なものだった。そういえば、宮脇俊三の『時刻表2万キロ』でも類似の話が紹介されている。気づいてみれば、つまらない話である。越後川口には、18時9分に着いた。運行再開間もない徐行運転と雪のため、4分遅着である。この電車はここで20分待って、18時35分発になる。

越後川口〜越後滝谷間は、単線運転だったのだそうだ。その交換駅が越後川口。上り列車がやってくるまで、下り列車は待機をする。「越後川口18時35分」というのは、発時刻であって、実際にはずっと前に着いているのであった。それだけの話であるが、実際に、よく知らされずに経験してみると、ドキドキするものである。

越後川口の待合室には、女子高生がいた。暖房のためとはいえ閉め切ったところでふたりきりというのは居づらいので、駅の窓口のガラス窓を開けてスタンプを押させてもらう。18時32分、越後川口発。上り列車で戻る。さきほどの下り列車もそうであったが、結構な賑わいで、立つひともいた。今日から運行再開だもんね。

小出に4分遅着。さっきの、煙草休憩のひとが乗ってくる。六日町9分遅着。越後湯沢9分遅着。スノボ板の人、何人か乗ってくる。岩原スキー場前、11分遅着。スキー場のオレンジ色の灯り。越後中里、ブルートレインのホテルが見えた。12分遅着、検札。ここで長く停車。もともとそういうダイヤで遅れを一気に取り返す。土樽を過ぎ、トンネルに入って、窓外に火花が散るのが見えた。後ろの若い男のスキー客2〜3人が「びっくりした」、「えっ? ハプニング?」と口々に喋っている。10秒ぐらいの暗転だが、突然だと長く感じる。水上、20時27分定刻、2番線到着。1番線には、高崎からの20時23分着が6分遅着で入ってきた。この折り返しに乗ることになる。

待合室をふらふらしているうちに改札開始。水上21時13分発。寝る。新前橋3分停車。前に両毛線からの3両連結。さむい。停車するたびに冷気が入り込んでくる。都市部に近づいたという証拠だろうか、駅に着くと自動ドアが開く。高崎22時23分着。5番線。この列車は、折り返し、23時10分の桐生行きになる。

高崎からは、4番線、22時33分発。E231系である。久しぶりに乗った。そういえば、10月16日のダイヤ改正以来ではないだろうか。4両目5両目に足が向くが、グリーン車車両はもう有料化が始まっていた。上野0時14分着。0時19分の京浜東北線桜木町行きの最終で秋葉原。0時22分着。0時29分の総武線各駅停車で御茶ノ水。終電の1本前。0時31分着。御茶ノ水止まりである。もうそんな時間である。向かい側のホームから「中央線の」各駅停車に乗る。武蔵小金井行き終電。次駅水道橋下車。ガード下のらんぷ亭でチキン丼を食べて今回の旅行はおしまい。